藤花幻:24 魔女の誘惑

シャノン・アルスター幻想

24 魔女の誘惑

 ←つちのこセンチメートル →「魔女の誘惑」を手直ししてみた
 24 魔女の誘惑

 枯れたかの様に押し黙っていた枝から、若萌の芽がおずおずと辺りの様子を窺っていた。
 カレドニアはさほど高い山ではないが、それでも春来は平地よりずっと遅い。北の野原が草色に染まっても、峰の影には白い鳥模様がまだ残っていた。だが緑と言うには遠いが否と言うには鮮やかな命の再生は、山すそを少しずつしかし確実に登り始めていた。
 森を駆ける人影が二つ。その後を追う幾つもの四脚の影。瞬く間に距離は詰まり、後ろの人影が剣を抜く。獣の悲鳴が森に響けば、その流す血に興奮した狼の群は牙を剥いて二人を取り囲んだ。
 古の精霊語が流れる。風が舞い、二人を包む。その直後、獲物を見失った狼達は狼狽し、辺りをキョロキョロと見回した。しかし獲物は見つかりもせず、互いに互いを疑うかの様に睨み合う。仲間同士で傷つけ合い、諍いを繰り広げる狼の群。やがてそれは追いつ追われつしながら森の中に消えて行った。
「これは一体・・・。」
 木の上から見下ろすソフィエーリアは戸惑い呟いた。一見獰猛に見える狼だが、それでも森に住まうエルフの眷属の一つである。下のエルフ相手にならいざ知らず、はるか高位の存在であるアルンには決して逆らえない。増してや襲い掛かろうなどと、本来ならその本能が耐えられない筈なのである。
「皆狂気に駆られています。」
 エスターは微かに震えるソフィエーリアの手を握る。そして枝から足を踏み出す。地面に引かれて落ちる二人。しかし直前で風の精霊がその肢体を支え、重さの無い羽毛の様にふわりと降り立った。
「此の山の持つ魔の気のせいだ。エステリアのアルンが理由も無くカレドニアを黄泉の山と忌んだ訳でもないだろう。」
「そうかも知れませんが・・・。」
「取り分け此の辺りは魔の気が濃い。こんな所に居たら中てられても不思議じゃない。」
 エスターは周り目を配る。自分達がどの辺りに居るのかがよく判らない。逃避の際に街道からは随分と大きく外れてしまった。
「馬には可哀想な事をしました。」
 ソフィエーリアが憐れみを以って言う。休んでいた所を不意に襲われたのだ、木の枝に繋いだ手綱を外す暇などある筈もない。逃げる事のみを生きる術とする草食の獣が一所に留置かれた儘ならば、無事を期待する方が間違いだろう。
 ソフィエーリアは左手を空に翳した。穏やかな風が輪を描いて広がる。しかし、暫くして彼女は首を振った。
「森が返事をしません。」
「魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。此処では精霊を使うのは極力止した方が良い。」
 エスターはソフィエーリアの左手の甲を包み込む。彼らの周りを何かの花苞の綿毛が漂い流れた。
 エステリアのそれとは違い、カレドニアの森は天井が低い。冬毎の大雪の重さに枝が耐え切れないのであろう。上へと伸び切れずに垂れ下がり、うねうねと曲がり折重なっている。長い年月の内に積った苔はその隙間を埋め、日の光は僅かにしか届かない。
 行程から言えば人の居る場所まで半日も有れば辿り着ける筈だった。馬を亡くしたとは言え、道の無い森の中では馬の足も人の足も大して変りは無いだろう。しかし森は延々と同じ様な姿を見せるばかりで一向に出口が見えない。一つの方向に向かっている積りでも、人の感覚の曖昧さは道を奪う。谷も河も然程に大きくはなくても、人の足には十分障害になりうる。それらを避けて歩く内に、気付けば真逆へ向かっていたなど良く有る事だ。エスターは時折木に登り、山の峰と太陽の位置を確認した。方角は合っているが、
「街道は見当たらない。峠はまだずっと先だ。僕等は思ったよりずっと奥に入り込んでるみたいだね。」
 エスターは口元で片手を握る。
「野宿の支度をしますか?」
 ソフィエーリアは少し不安そうに尋ねた。北斜面の夜は早い。アルンの二人の夜目は利くと言えども、闇に包まれれば森自体が別の顔を見せる。危険の度合いは昼間に比べるべくもない。
「そうだね、薪を十分に集めておかないと。」
 エスターは頷く。日の光の届き難い森の中だ、暗くなり始めればあっという間に闇に包まれてしまう。薪を集めるにしてもそうなってからでは遅い。
「それなら。」
 ソフィエーリアは左手で追い立てる様に空を払った。風の精霊が散らばり枯枝を運んで来る。
「ソフィア、精霊を飛ばすのは危ないから。」
 エスターは慌てて止める。と、ふと顔を上げた。目を閉じて耳を澄ます。しかし聞こえてくるのは物寂しい鳥の声だけだった。
「どうかしましたか?」
「いや、誰かが呼んだ様な気がして。」
「わたくしには何も聞こえませんでしたが。」
 純血のアルンであるソフィエーリアの耳はエスターのそれよりも良い。彼女に聞こえなかったというなら、
「多分気のせいだろう。」
 エスターは首を振ると、風の精霊を開放した。
「え?」
 何気なく行ったエスターの行動に驚くソフィエーリア。エスターはその意味に気付かず、アルミスの剣を抜くと彼女を片手で背中に誘導しながら、切先で円を描いた。
「何を?」
「さっきの狼の例もあるから。」
 エスターは枯枝を一部移して火を点ける。そして燃え上がった焚火の側に抜き身の儘の剣を突き刺した。
「まさかこんな風に使う事になろうとは思わなかったけど。」
「魔除け・・・ですか?」
 刃が炎を映してちらちらと輝く。
「この剣は一体?」
 エスターは複雑な笑みを浮かべ腰を下ろした。
「エルフィカイエス、つまり、僕の父親が置いて行った唯一つの置き土産だよ。」
「お父様の・・・形見?」
 彼女もエスターの隣に腰を下ろす。
「ホスローで君も見たとおり、ちょっと危ない代物でね。」
 ソフィエーリアは頷いた。地面に突き刺さる剥き身の刃からは魔力が漂い出ていた。それは自らが操る太古の力とは別のものだ。さりとて人間の魔法使いが使う力でもない。何かも判らぬ力が、封印されているのであろうにも関わらず収まりきれずに溢れ出ているのだ。魔除けなどと言ってはみたが、本当に森の獣を近づけぬ位雑作も無かろう。
「この剣と何か関係が有るのですか?」
「ん?」
「お姉様・・・いえ、お母様との、その、折り合いと言うか・・・。」
「・・・それはね・・・。」
 エスターは言い掛けて、顔を逸らし口篭る。しばしの沈黙の後、
「少し時間をくれないかい?」
 その目は焚火の炎を映し、閉じられた。
 窓辺の風を抱く白いカーテン、差し込む月の光、誰も居ない部屋、テーブルの上に置かれた剣、散る赤い花びら、轟音の様な静寂。思い出されるもの総てが冷たい。エスターはゆっくりと目を開いた。気が付けば随分と夜も深けていた。側には、外套に身を包んで静かに横たわるソフィエーリアが居た。
『自分などに出合いさえしなければ、エステリアの都で真綿に包まれた儘に暮らしていられたろうに。』
 罪悪感がエスターの胸を締め付ける。ふとその時、声が聞こえた。遠いが、しかし今度ははっきりと聞こえる。女性の歌声だった。ソフィエーリアの鈴を振る様な声ではない。澄んだ声と言う意味では同じでも、凍る様な冷たい旋律だ。エスターは立ち上がった。辺りに獣の気配は無い。
『何処だろう?』
 エスターは声を追って歩き出した。声の主が誰であるにせよ、人がそこに居るのであれば森を抜ける道位は知り得よう。木々の間を抜け、歌声に引き寄せられる様に身を急がせる。だが突然歌声は消えた。鳥の羽音がした。気が付けば目の前には大きな楡の木が、まるで両手を広げるかのごとく枝を伸ばしていた。

 次の日も二人はカレドニアの北斜面を無為に彷徨っただけだった。決して狭いとは言えない森だが、森の民をかくも長く煩わせる程では無い筈だ。確認の為に樹冠に登る度、遠望する山並みは近付いているのか遠退いているのか。変り映えの無い風景に二人は訝しがる。そして迎えた日没に、エスターは唇を噛んだ。どうにもおかしい。
「峰の稜線が変っていない。同じ所を廻っているみたいだ。」
「森の悪意に捕らわれたのかも知れません。」
 ソフィエーリアが呟く様に言う。
「悪意?」
「高位なる存在に成りきれなかった森は時に人の命を欲するとか。そして一度その味を知ると次々人を摂り込む様になると言います。」
「怖い話だ。」
「戒める為の言い伝えなのでしょうけど、カレドニアの森では在り得ないとも。」
「だとすれば話は早い。丸ごと焼き払うだけだ。」
「それは・・・流石にやり過ぎでは。」
 ソフィエーリアは表情を曇らせる。
「嫌かい?」
「何も此の森に住む総てが悪しき者と言う訳ではありませんでしょう。」
「なに、脅しを掛けてるのさ。大人しく通さないと大変だよってね。」
 エスターの軽口にソフィエーリアは表情を和らげクスリと笑った。
 真夜中になり、エスターは目を開いた。焚火の炎は剣の刃に輝き魔除けの光を散らしている。相変らず辺りには何の気配も無い。ただ、あの冷たい歌声が微かに流れていた。ソフィエーリアは何事も無いかの様に眠っている。昨日のそれと言い、感の良い彼女には珍しい姿だ。
 エスターは静かに立ち上がり声を辿る。潅木の枝を除け、藪を避ける。つま先に絡み付くうねる木の根を躱すうちに早足になり、駆け足になる。声を追って、しかしそれが追っているのか呼ばれているのか、自分でも曖昧になっている事にも気付けなかった。目が異様な光を帯びる。その足は大きな楡の古木の前で止まった。
 楡の古木の周りに薄緑の霞みが漂い始める。すると木の幹にまるで水面に広がる波紋の様な光が広がり、人影が現れた。薄い冷光に包まれた人影はやがて露になる。ヴェールを纏った緑の髪の美しい女性だ。だがエスターの頬に差し伸べる手は白を通り越して青み掛ってすらいる。エスターを値踏みするかの如く見回す目は、閉じているのかそうでないのか判らない程に細い。彼女の真っ赤な口角が微かに上がる。彼女の手がエスターの頬から首筋に掛けて伸びる。が、撫ぜようとした刹那、まるで弾かれる様に走る衝撃に手を引っ込めた。
「これは思っていたより難儀な種族の様だな。」
 女性のは苛立たしげに爪を噛む。しかし
「もはや籠の中の鳥・・・。」
 急ぐ必要は無い。彼女は冷たい微笑を浮かべて木の中に溶けて行った。
 気がつくとエスターは楡の木の前に居た。歌声は聞こえない。彼は古い大木を見上げた。
「この辺だと思ったんだけど。」
 何処かで見た事の有るその楡の古木に、しかし思い出せずにエスターは踵を返した。そう長くソフィエーリアを一人にしておく訳にはいかない。

 三日目になって二人はいよいよ事態の深刻さに気付いた。行けども行けども同じ風景に同じ場所。先程過ぎた光景が眼前に立ち塞がる。樹冠に登っても太陽は隠れ、遠くに山並みも見えない。木を降りて見れば、戻って来た覚えも無いのに昨夜の焚火が煙を上げていた。
「拙い、森が閉じられてる・・・。」
 エステリアでアルンが廻らせていた結界とはまるで違う、異形の迷路に二人は捕らわれてしまっていた。エスターは舌打交じりに呟く。すると、森は開き直ったかの様に重苦しい霧を漂わせて視界を阻み始めた。
「本当ならこんな事はしたくないけど。」
 エスターは燻る熾火に手を翳した。ふと何処からとも無くあの歌声が流れて来た。エスターは手を止め振り返る。
「歌・・・?」
「歌など聞こえませんが。」
 ソフィエーリアは不思議そうにエスターを見る。が、その表情の虚ろさに驚いた。
「どうしたのですか?」
 エスターはまるで糸に繫がれた操り人形の様に歩き出す。ソフィエーリアが即座にその手を掴むが、まるで影が行くかのごとく摺り抜けて行く。
「エスター、待ってください。」
 エスターが霧の向こうに消えて行く。走っている訳でもないのに瞬く間だ。ソフィエーリアは駆け足で後を追う。辛うじて映る影を追い掛け、そして消える寸前にそこに辿り着いて目を見張った。
 楡の古木の前で、緑の髪の女がエスターを擁き抱えて居た。
「ドリュアデス!」
 古い森はやがて自我を持つ。穏やかに過したならば光の森にもなろうし、禍々しいものに晒されたならば闇の森にもなろう。森の純粋さ故に過してきた時に影響を強く受けるのは仕方が無い事だ。彼女はその溜め込んだ気性が何時しか生み出した妖魔だ。糧とする為に目をつけた人を取り込み、取り込んだ人の時間だけ己が時間に繋ぐと言う。
 ドリュアデスは赤い唇を舌で潤す。ただ立ち尽くすエスターのそれに合わせると、目を見張った。
「まさかにアルンとは千載一遇の獲物。」
 そしてソフィエーリアに目を向ける。手にした獲物と良く似た顔に気付いてニヤリとした。
「ほう、片割れか?」
「わたくし共をアルンと看破したならば、手を出したその代償が自らの消滅を掛けたものと理解しておろうな。」
 ソフィエーリアはミスリルの剣を抜き、その剣先をドリュアデスに向けた。
「無論の事。故に正気の者と遣り合う気など毛頭無い。」
 彼女はエスターの体を抱えたその儘に幹に溶け込んで行く。
「エスター!」
 ソフィエーリアは駆け寄り、剣を突き立てた。が、剣は音を発てて幹に突き刺さる。既に妖魔の姿は無い。
「ドリュアデス如きが我が背に何たる無礼。」
 ソフィエーリアは懐剣を取り出すと、幹に突き刺さった剣の刃に滑らせた。火花が散る。その火花を種に炎が湧き出した。炎は膨れ上がり竜の姿を形取る。
「《浄化なさい!》」
 炎の竜は咆哮を上げて火を吹いた。

 エスターは不思議な光の中で目を覚ました。淡く光る物がふわふわと辺りを漂い、それらが交差する度に周りの色が染め返された様に移ろう。驚きも戸惑いも無かった。心の中では過ぎた日々への想いだけが重石の様に伸し掛かっていた。見た事も無い女性が空に向かって手を差し上げている。エスターは半身を起こし、唯虚ろな目でそれを見ていた。
「種どもよ、散れ。散って各地に芽吹くのだ。」
 振るう掌から小さな粒が飛び出し、光の壁の向こうへと消えて行く。ひとしきり繰り返すと、彼女はエスターの前で屈み込んだ。妙に優しげで、妙に残酷な微笑み。
「それにしてもアルン程の獲物が随分あっさりと網に掛ったもの。多少混じってはいる様だが、それでも至上の血には違いない。」
 ドリュアデスは満面の笑みを浮かべてエスターの手を取る。白く華奢な指は随分と柔らかい。
「男の物とはとても思えぬ。」
 そしてクククと笑った。
「安心するが良い。お前は死ぬ訳では無い。我が糧となり、その寿命を我が引き継ぐだけの事。森となって共に『生きる』だけの事。お前に永遠の束縛を与えてやろう。」
 ドリュアデスの指の先、尖った爪が剃刀の様に鋭く光る。それはエスターの額へと伸びた。エスターはピクリとも動かない。
「美しい顔。赤く染まればさぞ美しかろう。」
 爪の先が額に触れる。少しずつ膨らむ真紅の玉。自らの重みに耐えかね、破れて流れた。緑色の瞳が赤く染まる。が、そこに炎の色が映る。
「何!?」
 ドリュアデスは驚き振り返った。森の一角が破れ、竜の形をした炎が涌き上がる。その炎が崩れ、周りの木々を巻き込んで遮る結界を焼き払った。
「よくもまあ、遠慮も無く我が体を焼いてくれるもの。」
 ドリュアデスの睨む霞の向こうからソフィエーリアが姿を現した。
「逃げられると思うたか?」
 ソフィエーリアが手を翳すと、火の精霊が地面を焦がしつつ妖魔ににじり寄った。
「だが、まだ一部に過ぎぬ。幾らアルンとは言え百歳にも満たぬ小娘、齢三百を数える我を捕らえられるものか。我が森の中を何処まで追って来られるか見ものだ。」
 ドリュアデスは鼻で嗤うかの様に言い捨てると、再びエスターを背中の古木の洞に引き摺り込んだ。一瞬送れて大木が炎に包まれた。
「おのれ・・・」
 ソフィエーリアの何時もは柔和な目が鋭く光る。
「もはや手加減は無いと知れ。」
 彼女は両手を広げると、炎の精霊の姿が見る見る膨れ上がった。その背に巨大な羽根が広がるや、弾けて八方に散る。その一つ一つが地面に落ち、劫火となって燃え広がる。次々と炎に巻かれる木々。森は瞬く間に火の海となった。
「アルンの力の恐ろしい事よ、聞きしに勝るとはああ言うものか。」
 ドリュアデスは追いすがる炎を振り払い、茂みから飛び出して乱れた息を整えた。長年掛けて幾重にも廻らせた結界がまるで紙の様に次々破られ焼かれて行く。あれではとても棲家の森は助かるまい。
『だが、これまでにばら撒いてきた種はこうしてあちこちにに根付いている。遠く離れたこの場所までは流石に追って来れまい。』
 ドリュアデスは分身の森を介して通じていた道を閉じた。
「しかし、一体此処は何処か?」
 意図した以上に遠くに出口は開いた様だ。周りの景色に見覚えは無い。分身の森もまだ小さな茂み程度だ。
「また一からやり直しか。随分と高くついた。」
 ドリュアデスは爪を噛む。
『とは言え、獲物がアルンならば加えて三百年の時を得られよう。遠きこの地に新たな棲家を作れば良い。』
 ドリュアデスの視線がエスターに向かう。
「さあ、我が贄となれ。」
 彼女の足元から延びた木の根がエスターの足から絡みついていく。彼女の鋭く尖った五本の爪が刃の様に長く伸び、獲物の前髪に触れるや金糸がはらりと散った。爪はその儘首筋に流れ、白い柔肌に突き刺さった。
「どうなろうと構わぬと言えば構わぬが、一応はわたくしの体、他の者の好きにはして欲しくないものよのぅ。」
 突然の声にドリュアデスはギョッとして仰け反った。エスターが顔を上げる。緑色の目が強烈な眼光で突き刺して来る。首筋を真っ赤に染め抜いてなお、平然と相手を見据えている。まるで違う。声質も表情も、さっきまでの魔法に支配されていた獲物とはまるで別人だ。
「お前は一体・・・何者?」
 ドリュアデスは真っ赤な目を見開き、狼狽えて後ずさった。
「わたくしはわたくし。森の妖魔などは知らぬでよい。」
 口元に宿る不思議な微笑。絡みついた根が瞬く間に枯れて落ちる。
「それがお前の本性か!」
 ドリュアデスは爪を翳してエスターに襲い掛かった。だが、エスターは微動だにしない。爪はその眼前で止まる。彼女は硬直したかのごとく動けなかった。胸から輝く刃が突き出ていた。
「何なのだ?」
 ドリュアデスの口から小さな問いが零れる。背中から胸に突き刺さるアルミス・シャドウ。森に置き捨てられていた筈の、誰も操る者の無い筈の剣。流れる琥珀色の体液を手に受け止めながら、しかしどうする事も出来ずに掌を見た。
「さっさと去ねよ。何時迄出しゃばる訳にはいかぬでの。」
 絶望と自嘲をない交ぜにした表情を浮かべ、ドリュアデスは倒れた。見る見るうちに枯れ果て、原形を留めぬ程に崩れさる。後に残った剣を拾うや、エスターの瞳から力が消えた。そしてその場に倒れ伏した。

 草を踏む足音が近付く。それはエスターを見つけて立ち止る。ソフィエーリアは横たわるエスターを搔き抱き、その額に頬を寄せた。温もりが頬に伝わり、ソフィエーリアの目に涙が浮かぶ。
「エスター、お母様に余り煩わされますな。本来ならあの様な下等な妖魔に囚われる我が背ではありませんでしょうに。」
 ソフィエーリアはエスターに口づけする。エスターがゆっくりと目を開いた。その手を取ってソフィエーリアは立ち上がった。暗かった林に光芒が射し込んで来た。
 悪夢が覚める。
関連記事
スポンサーサイト


総もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png え゛
もくじ  3kaku_s_L.png 好きな歌をば
もくじ  3kaku_s_L.png 下手な詩をば
もくじ  3kaku_s_L.png 好きな絵をば
総もくじ  3kaku_s_L.png 管理人の独り言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【つちのこセンチメートル】へ
  • 【「魔女の誘惑」を手直ししてみた】へ

~ Comment ~

NoTitle

コメント、たくさんにありがとうございます。
「シャノン・アルスター幻想」
掲載があまりに飛び飛びなのでついていけなくなりました。(笑)
PCをみてみると、「エニシダの家」までがWORDに入っていて
読了しています。
あと10章を追加して読んでみます。

NoTitle

物語を書ける人はいいですね~。
自分のイマジネーションの世界を造って、そこで臨場感豊かに遊べます。
若萌の芽がおずおずとしている様子を想像し、
命の再生が山すそを少しずつ確実に登っているシーンを思い浮かべます。
そしてポンポンと体言止めの短いフレーズを連ね、
次いで長めの文章でイントロ部をまとめる。
この辺は、いい気持ちで書いたのでしょう。
三島由紀夫のようにオノマトペを嫌う人もいますが、
擬声語や比喩は、うまく使うと決まりますね。
詩や歌詞はそれがうまいかどうかで決まるような気がします。
私は本を買うときは、数ページ適当にペラペラとめくり、
そこにひとつも印象的な言葉とか思考がない場合にはまず買いませんね。
数行読むだけで十分に、買うべき本かどうかが分かります。
文学の才能には、アイディア、創意工夫、閃きが必須のようですね。
エリアンダーさんを少しばかり真似して、
白地にして読みやすくするためにエディターにコピペしてみましたが、
1行35字詰めで302行。
まあ、凄い文章量で、漢字も多く、目が眩みそうです。眩みました。(笑)
正月休みを潰して書きましたね。
自分の世界を構築して遊べる人は、いいなあ、幸せだなあと思います。
それにしても、こんな長編小説を間断的に書いている作者は、
よくストーリーを忘れないものだと感心します。(笑)

明けまして・・

今年は、自作小説からスタートですねっ!
エネルギーありますな~(尊敬)。

それにしても、
「魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。
此処では精霊を使うのは極力止した方が良い。」
「・・。そして一度その味を知ると
次々人を摂り込む様になると言います。」

本当にありそうで、コワい・・。

エリアンダー様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 ははは、まったくどー仕様もない亀筆でございましてもう何ヶ月ほったらかしなんよって感じですでわ。それをまあ、良くぞ読んでくださいますなぁ。ありがたいと言うか、申し訳ないというか。・・・無理せんでええですよ^^;;

☆☆☆バーソ☆☆☆様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 え゛ー、実は何とか,17年中にと思ったのですが、無理でした。今回は字数としては少ない方でして、ワードのページに置き換えてやっと6枚と1/4程度であります。元作ではあと2枚半程あったんですが、流れ的に次回に付けた方が良い様なので切ってしまいましたげな。
>>>この辺は、いい気持ちで書いたのでしょう。
 いや、その辺は何度もとっかえひっかえ入れ替え差し替え消したり追加したりもうぐちゃぐちゃですよ。
 わたしゃ漫画で育った様な困ったちゃんなので、文章で物語を書いていても頭の仲では漫画のコマ割りみたいなのが浮かんでしたりします(ただし画力は無い(笑))。その為に情報を一度に詰め込もうとし過ぎたり、逆に背景描写が疎かになる悪癖があります。つまり、誰かが何かの行動を起こしている裏で別の人が別の行動をしている場合、画ですと背景としてさりげなく描けますが、文字ではそうは行かない。が、それを都度くどくどと描写すると流れが悪くなる。そこで端折ると、後になって矛盾の様になってしまうのです。ああ、文章力の無さが恨めしい。
 ストーリーですか?忘れますよ(笑)特に細かい複線とか、後で修正した所とか、もうごっちゃになって、整理が聞かなくなると苦しくて放置してしまいます。そしてまた元の木阿弥にorz そうなると次にエンジンが掛るまでもう大変。亀の甲羅に磨きが掛れば物語は更に擦れて霧の中。さあ、そこからのサルベージに余計な時間が掛るので物語は輪を掛けて停滞するのでありました。
 付き合う方はたまったもんじゃないですよね。ひらにひらにm(_ _ )m

梨木みん之助様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 はい、ライフはとっくにゼロです。檜の棒で叩くだけであの世行きです。リザレクション下さいましm(_ _ )m
 ニーチェ曰く「深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返す」のだそうです。つまり、広域に影響を及ぼそうとすれば、それだけ多く他の影響を覚悟しなければならない。強く影響しようとすれば、他の影響も強く受けると言う事でありましょう。
 美味いものは二度も三度も食べたいし、成功談と言う言葉が示すとおり一度上手くいけば二匹目の泥鰌を狙うのは常であります。知ったら最後、知る前には戻れない。気をつけよう 酒と博打と おねーちゃん ・・・お粗末

拍手鍵※下さった吐息に濡れるお嬢様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 態々こんなアホなブログにご来訪頂きありがとうございます。が、コメントに対するご返事はそちらで戴ければ十分でございますぞ。わたくしは基本、ネタがある場合にのみその時の気分で好き勝手書き込んでおりますので、あまり気にせずに。

一縷の望み、蜘蛛の糸

お遅ようございます(こんばんは・・)?
お年賀を兼ねて
兄者のお店に行って参りました
芥子菜で一杯と思いましたが
これでは売り上げに協力できません
そこで特別カツどんを注文しました
(ご飯ちびっと玉葱三倍カツ丼でしゅ)
なんと
付き出しに出て参りましたものは
miss.keyさんも好きなもの・・・
今度ブログに貼ります

せっせと『音読』をしております
試練は人を磨く・・・・
ちとしんどい
あはは。

^^

ワタクシ。無職時代が何度かありまして。最初の無職時代にpassport(10年用)を作りました。つまり海外渡航の意思があったのでした。行く先は決まっておりました。「インド」。何故かわかりませんが。行くなら「インド」なのでした。「インドの山奥で修行して~♪」別に修行するつもりはなく。何か根源的なものがあるようで。妙に惹かれていたのでした(ヨガや行者の本などやたら読む)。だったのでが。結局。「めんどくさい」で終了。いつの間にかpassportの利用期間は過ぎたのでした。思えば「行ける時に行く」べきでした。若い感性は敏感です。良し悪しは別として行けば必ず何らかの影響を受けたことでしょう。海外から見た「日本」の目も持てたでしょう。「めんどくさい」はいけませんね。でも「めんどくさい」が好きなんですよねぇ^^)/

綴・ウナ様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 いい加減お年貢を納めたいのですが、どちらのお嬢様も受け取ってくださりやがりません管理人でございます。仕方が無いのでスーパーの惣菜コーナーで見切り品のトンカツ買ってカツ丼作ってみました。肉ちびっと衣通常の三倍「赤い彗星カツ丼」であります。なんとおまけに付いてきたのは唐揚でした。只今せっせと食べております。

PS:わたくしめの書く物語なんか、無理して読んでも時間返せごら゛ぁ゛!ってなるだけですのでご注意あれ(笑

waravino様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 わたくしも某社を辞めた時、半年か一年くらいぶらぶらするつもりでいたもんですから、摩周湖とか、阿蘇とか、屋久島とか、小笠原諸島とか、大東島とか行こうとしたんですよね。が、時は二月、何処へ行くにも寒い。もすこし温かくなったらにしとこうかと思っていたら・・・貧しさに負けた~♪、いいえ、世間に負けた~♪。甥とそこに纏わる世間体に負け、あっさりと再就職させられ、遂に遊ぶ事無く今日に至ります。がぁぁぁぁぁ!!ホント、行ける時に行くべきでした。今では土曜日はおろか旗日にも休めないぶらっく企業の代えの居ない部署で毎日油売ってます(ダメじゃん。
 メンドクセはキニスンナ、アキラメロと共にこの世の真理であります。悟ったあなたは偉い!うん、仙人になれますよ。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【つちのこセンチメートル】へ
  • 【「魔女の誘惑」を手直ししてみた】へ