藤花幻:第二話が忘れた頃にやって来る

「短編」
ショートショート

第二話が忘れた頃にやって来る

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   とあるショッカーの日常

 ケトルがけたたましく鳴る。赤いマントを羽織った男は徐に立ち上がった。総統である。先日、ビル解体の折に偶然見つけた中古のガス台は、ライダーキックのカタストロフィにもめげずに今こうして第二の人生を歩んでいる。総統はコンロのつまみを捻り火を消すと、100グラム500円の「高級」茶葉を蓋に少々取り出し、急須に入れた。お湯を注ぎ、蓋をして蒸らす事五分、盆の上に並べた茶碗に均等に入れて、さて、ティータイムだ。
 座敷には円いちゃぶ台を囲んで怪人と助手の戦闘員が二人ずつ。
「お茶、入ったよ。」
「ご馳走様です。」
 蜘蛛男は受け取って啜る。
「熱湯のまま煎れたでしょう。角が立ってますよ。」
 総統、少したじろいで、
「少し冷ましてからのが良かったかな。」
「その癖ちょっと薄いです。」
「お茶っ葉残り少なくてさぁ。」
 痛い所突かれてすっかり弱気。
「お茶受けないですか?」
「ないよ・・・。」
 まあ、開き直るしかないわな。
 六畳の休憩室に渋茶を啜る音だけが響いた。
「あ、そう言えば。」
 蜘蛛男が席を立つ。事務所の机からメモを取り上げて、しかし逆さだったので首を曲げて読む。
「総統、農園から田植えの依頼来てるんですけど。」
「田植え?田んぼは汚れるだろう。」
「少ない仕事選んでる場合じゃないですよ。酒屋の付けもそろそろ綺麗にしないと酒売ってもらえなくなりますよ。」
「嫌だね、金の亡者は。こっちは不景気なんだからもう少し面倒見てくれても良いのに。」
 総統はぶつくさ言いながらもう一人の怪人に目をやった。怪人蛸男である。
「あの、俺、水被りNGなんすけど。」
「何でよ。蛸は水得意だろう?」
「でも、海水専門なんで、真水は駄目なんです。」
「何弱気な事言ってるんだよ。気合が足らないんだよ、気合が。世界に冠たるショッカーの怪人たる者がそんなんでどーする。何だか知らないけど根性入れて掛ればどうとでもなる。いける。やれる。がんばって来い。」
 総統は言うや麦藁帽子を持たせて蛸男をドアへ押しやる。
「こら、戦闘員B、お前も手伝って来い。」
 そんなこんなで蛸男を送り出した総統はしたり顔で
「やっぱり米作りは基本だよな。そんな大事な仕事に携われる事に感謝しなくてはいかん。」
「さっきまで田んぼは汚れるからどーだとか言ってたくせに。」
「何か言った?」
「いえ。・・・あ、もう一件入ってますね。これ、えりちゃんの字かな。」
 蜘蛛男はメモの裏に気付いてひっくり返して唸った。
「え、何々?」
「蜂の巣駆除ですって。」
「えー、それは流石に・・・。」
 総統は顔を引いて顰める。
「ですよねー。何時も経理のえりちやんにチクチクやられてるのに、これ以上刺されたら身が持たないですよ。」
 と言うからには蜘蛛男も散々やり込められていると言う事か。
「そうだろう。」
 総統は我が意を得たりと頷くが、ふと我に返って
「って、えりちゃんに聞かれたら大変だぞ。」
 慌てて辺りをきょろきょろ見回した。
「あ、大丈夫です。えりちゃん今日休みで。」
「そうなの?」
「子供の授業参観だそうです。」
「何かいきなり家族ドラマだなぁ。旦那さん、警察官だったっけ?」
「はい。先日、本郷がノーヘルで切符切られたって青筋立ててましたよね。あれやったの、えりちゃんの旦那さんだったらしいですよ。」
「ギャハハハハハハハハハー!」
 総統と蜘蛛男と戦闘員A、三人して腹を抱えて転げまわる。
「しかも、違法改造してたのがばれてバイク没収。」
「ギャハハハハハハハハハーー!!」
「やっぱりあいつ馬鹿だ。」
「ギャハハハハハハハハハーーー!!!」
 電話が鳴った。総統は目じりに涙を浮かべながら受話器を拾う。すると中から悲鳴にも似た声が聞こえて来た。
「どうしたの、蛸男」
「駄目です、やっぱり俺には真水は危険すぎます。体が、体が・・・。」
 そして声の主が代わる。
「ヒー。」
「あ、戦闘員B、どーなってんのよ。」
「それが、蛸男さん田んぼの水に浸かったら体中ふやけて白くなっちゃって。浸透圧の関係で大量の真水は毒と同じらしいです。」
「あらら。」
「それよりですね、」
 って蛸男の容態はついでかい。
「農園の親方かんかんですよ。役に立たない奴回すなって・・・」
 総統、無言で受話器を置く。蛸男の八本の腕は田植えには最適だと思ったのだが、甘かったらしい。
「こりゃ代わりに誰か向けないと賠償問題になるかも・・・。」
「あ、私はこれから営業です。女方(おざかた・某T市内の大字である)の和菓子屋のご主人と約束してるんで無理ですよ。」
 と蜘蛛男。
「となると今日は誰もいない訳?」
「みんなアルバイトに行ってるかライダーにやられて病院ですからねぇ。手が空いてるとしたら総統位しか。」
「え゛――。」
 そんな訳で合羽のズボンに地下足袋はいて、それでも威厳だけはとマントを羽織り、総統自ら御出陣。50ccのべスパは白煙吐いてT市南の田んぼへ走る事5分、今回の現場にあっさりと到着。嫌でも目に付く巨大な看板。書かれた文字は「本郷農園!!」何か嫌―な予感を抱き総統は立ち止った。
「まさか・・・」
 そう、そのまさかだよん。
「おらおらオメエラ、ぼさっとしてんじゃねぇ。今日中に10町歩の田んぼ終わらせっぞ。
日本全国の皆様が、ライダー1号米を待ち侘びていらっしゃるんだ。気合入れて掛れやぁぁ!」
 田植え機の上に仁王立ち、拡声器片手にねじり鉢巻を締めた仮面ライダー本郷猛が元気一杯気勢を上げているではないか。
「お、総統、よく来たじゃねぇか。今日は普段の分も含めてしっかり働らいて貰うからな、覚悟しろよ。」
 悪夢だ。
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~ Comment ~

くすっとしました(^^)

ショッカーの庶民的な暮らしが垣間見られて思わずくすっとしました(^^)

個人的には本郷猛がノーヘルで切符を切られるところがツボですね。
この分では一文字隼人がスピード違反で捕まるのも時間の問題のようです。

ショッカーの怪人は巨大怪獣と違ってリアルで子供心に恐怖心を覚えました。蜂女のプロフィールに捕まえた男を奴隷として死ぬまで働かせるとあってビビったのを今でも覚えています。

味のあるショートショート大好きです。


追伸 

先日コメントをいただいたのですが、完全に見落としていました。ごめんなさい、ご容赦くださいませm(__)m

おのみちたかし様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 蜂女のコメントは以前にもいただきましたね。それで今回パートのえりちゃんのチクチクいびりを思いついたわけであります。が、しかし随分と長いこと間が空いてしまいました。まあ、本来主体である筈の物語も更新が止まって一年あまり・・・もともと遅筆なのですが、今や完全に止まってしまっております。いかんなぁと思いつつ、睡魔には勝てず・・・。土曜の夜中に目が覚めてコメントの返信書くのがやっとこさって・・・。

PS:お忙しい中、お気を使わせてしまいまして申し訳ございません。わたくしのあほなコメントなど気にせんで下さいまし。
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