藤花幻:サルベージ この空を飛べたら 13/4/16

好きな歌をば

サルベージ この空を飛べたら 13/4/16

 ←つちのこ台風接近後編 →サルベージ 肩に降る雨 14/1/17
「ルカス、悲しむんじゃない。母さんは空に居るんだよ。あの雲の上で何時でもちゃんとお前を見守っているんだよ。」
 じゃあ、あの雲まで行ければ、母さんに会えるのかな・・・。

 秋風がライ麦畑をそよぎ渡る。アロイスは鎌を持つ手を止めた。丘の上に翼が見えた。陸を滑り降りる様に翼が走り出す。そして丘の端の崖を飛び立った。
「ああ。」
 彼は思わず落胆の声を上げた。その声を聞きつけて彼の父親は作業を止めて顔を上げた。
「なんだ、あの餓鬼、またやったのか。」
 父親は小さな崖の下のヒースの藪で残骸に変わり果てた翼を見遣った。
「まったく、懲りねぇ奴だな。」
「でも本当に飛べたら凄いじゃないか。」
 アロイスは言うが、
「空を飛ぶのは鳥の仕事だ。人間は畑で働くもんだ。」
 父親は肩を竦めて再び仕事に戻った。
 海の見える小高い丘では一年中風が吹き抜けていた。麓の一軒家で、ルカスは一人ただ黙々と翼を修理した。
 家族は無く、友人らしい友人も殆ど居ない。村人は彼を奇異の目で見ていた。父親の残した家とそれなりの蓄えを食い潰しながら、空を飛ぼうなどと埒も無い事に夢中なルカスに構っている時間など無い。ただ、しばしば丘の上に現れてはその直後に残骸に変わる異様な姿の翼は村の日常の風景になっていた。
 扉を叩く音がした。ルカスは手を止め、振り向いた。
「今度は旨くいくと思ったのになぁ。」
 訪ねてきたアロイスに、ルカスは彼以外には笑みに見えない様な不器用な笑みを浮べた。だがそれだけで、すぐに手にした木材を削りはじめた。
「今日ので駄目なところが判った。次は行けるさ。」
 ルカスは丸めた背中でそう言った。
「その台詞、何度目だよ。」
 と返されても彼は肩を落とすでもなく作業を続けた。
「直ったら見せてやるよ。」
 崖を飛び立った翼は、一瞬風を捕まえて浮いた様に見えた。アロイスはハッとする。だが翼はそのままヒースの藪に突っ込んだ。前言は果して、あっさりと費えた。しかしルカスは気を落とすでもなく、擦り傷だらけの体で再び翼の修理に向かうのだ。アロイスはどうしても理解できず、つい口にしてしまった。
「人が飛べる訳無いだろう。もう好い加減に諦めた方がいいんじゃないか?」
 ルカスは応えなかった。
 それ以来、丘の上に翼を見ることは無くなった。アロイスはルカスを尋ねられなかったし、ルカスは元から尋ねてくる様な人でもなかった。最初こそ訝しがっていた村人達も、その内に話題にする事も無くなっていた。
 その日、空は抜ける様に青かった。アロイスは村人達のざわめきと視線に吊られて丘を見た。そこには翼があった。あの日以来、ずっと姿を見せなかった翼だ。アロイスは急いで丘に向かった。そこにはルカスがいた。彼はアロイスを見ると、以前と変わらぬ不器用な笑顔で彼を迎えた。
「飛ぶのか?」
「ああ。行って来るよ。」
 ルカスは翼につかまると丘を蹴った。それは何時もとは違う方へ下りて行った。その先は同じ崖でも海に繋がる高い崖だった。
「危ない!」
 アロイスは叫んだ。だが、翼は海風に抱かれ、ふわりと舞い上がった。
「飛んだ・・・。」
 アロイスは呆然として喜ぶ事も忘れていた。翼は風に乗って昇って行く。一面の青に、白い翼だけがくっきりと浮かんでいた。村人達も見ていた。何時もは笑っているだけだった彼等も、空に浮かぶ翼を見上げ、誰一人として声も上げず唯じっと眺めていた。
 翼は円を描きながらどんどんと小さくなっていった。アロイスは少し不安になった。
「おい、そろそろ帰って来いよ。」
 アロイスは呟いた。
「帰って来いよ。」
 アロイスは叫んだ。
 だが翼はそのまま空に吸い込まれる様に見えなくなった。
 数日が過ぎた。
 崖の下の砂浜に波が打つ。無数の泡を生みながら、しかしそれは総てはじけて消える。誰も見つける者の無い翼の破片を、ただ波が洗っていた。 


-この空を飛べたら-   中島みゆき

 映画だったら此処でエンドロールが入りながら歌が流れるのであります。
 そしてその乗りで歌詞を入れたら凍結されたげなorz
 よって歌詞は省略なのであります。関心の有る方はようつべ等で検索してみてください。その価値は有りますよ。


 以下、頂いたコメントとわたくしめの返答でございます。

 ☆バーソ☆様より
 これは2013年の作品ですか。miss.keyさんと最初の出会いは、忘れもしない、メロスの拙記事にコメントをいただいた日で、2014年2月25日でした。あれから、まだ2年半。もっと早く知り合いたかったですよ。
> 崖の下の砂浜に波が打つ。無数の泡を生みながら、
> しかしそれは総てはじけて消える。
> 誰も見つける者の無い翼の破片を、ただ波が洗っていた。
 このラストシーンに来たら、思わず眼に涙が滲んできました。本当に。わたし、日頃、駄洒落ばかり書いていますが、こういうのに弱いんです。
 子供の頃は、現実のような浮遊感を伴って、空を上に下にすうーっと飛んでる夢をよく見たことを思い出しました。
 「ライ麦畑」とか「ヒースの藪」というちょっとした名詞。「不器用な笑顔」とか、「翼は海風に抱かれ、ふわりと舞い上がった」などの文章も痺れます。
 「ああ人は昔々鳥だったのかもしれないね」。この曲はあまり記憶にないのですが、そうですね。そんな気もします。

気球バーソ風船様へ
 こんにちは。コメントありがとうございます。
 走れメロンが最初でしたか。思わず見に行ってしまいました。ひでーコメント(笑)返答に困るバーソ様の顔が浮かぶようであります。
 空は何時までも人の憧れなのだと思います。そして決して届かない場所なのだと思います。気球が発明されても、飛行機が発明されても、ロケットが発明されて宇宙にだって行ける時代になったって、やっぱり雲の上は神秘の世界。心は決して行くことのできない場所。地上から見上げる人々は自分を置いて行ってしまった人を空の向こうに思うのでありましょう。
 波間に漂う翼の残骸は空に届かなかった結末を暗示しながら、しかし心は行き着いたと言えるかもしれません。空に拒絶されたとも取れますし、同時に行きついた証であるとも取れます。
「この空を飛べたら」は中島みゆきさんの歌ですが、加藤登紀子さんも歌っています。どちらも名曲ですよ。
関連記事
スポンサーサイト
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png え゛
もくじ  3kaku_s_L.png 好きな歌をば
もくじ  3kaku_s_L.png 下手な詩をば
もくじ  3kaku_s_L.png 好きな絵をば
総もくじ  3kaku_s_L.png 管理人の独り言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【つちのこ台風接近後編】へ
  • 【サルベージ 肩に降る雨 14/1/17】へ

~ Comment ~

NoTitle

「この空を飛べたら」中島みゆきの曲に触発されたんですね。
久々に聞いてみようとyutube検索したら苦手ななおばあさんが
ずら~と出てきて萎えました。(笑)
そうか、中島みゆきがそのおばあさんに曲を作ってやったんだ。
ブログはHPと違って過去の記事が埋もれてしまいがちだから
サルベージっていいですよね。私も時々やってます。
埋もれるには惜しい記事があってみんなにもう一度
見てもらいたいもんね。

エリアンダー様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 エリアンダーさんはおときさんが苦手ですか。うーむ。いいおばちゃんじゃないですか。「雑踏」とか「時代遅れの酒場」とか「時には昔の話を」とか、良い歌が一杯ありますよ。「百万本の薔薇」は薔薇を百万本も揃えられる財力持ってて何処がびんぼな絵描きじゃーと突っ込みたくなりますがね。
 基本、同じ記事を二度載せる事はしないのですが、消されちまっちゃあしょうがねぇ。歌詞有りきの記事だから何とも間抜けになってしまいましたが、意地でも載せたくなるのであります(笑
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【つちのこ台風接近後編】へ
  • 【サルベージ 肩に降る雨 14/1/17】へ