藤花幻:人取り橋

「短編」
歴史もの

人取り橋

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 勝負はあらかたついていた。
 伊達軍はそれなりに精強ではあったが、この劣勢は覆せよう筈も無い。圧倒的な大軍を、数に劣る側が正面から受け止めるなど本来ありえない策である。だがそれでも伊達軍がその様に応じたのは将の若さ故だろう。それこそが災いだとも言える。日没が両軍の兵を別ったとは言え、もはや伊達軍は風前の灯だ。奇襲に形勢逆転をかける余力すらあるまい。無論、こちらの備えに怠りは無い。つまり、もはや伊達軍に打つ手など無い。そして朝日が昇れば、政宗の首は血塗られた槍の穂先に掲げられる事になる。
 だが、義重の気は晴れなかった。いや、憂鬱ですらあった。彼の陣屋に集まった奥州南部の諸将の弛み切った顔を見るにつれ、その思いは募った。
 室町、いや、その前の時代より幾重もの血縁によって結ばれ、只のんべんだらりと北の大地を支配してきた大名達には、統治に対する気概は感じられない。中央では既に趨勢は秀吉に傾き、時代は後戻りの出来ない所まで来ているというのに、この奥州ではその流れを感じてすらいない。 そう思えば思う程に、義重は自分の立ち位置に疑問を感じずには居られなかった。
 奥州の諸侯は確かに集まれば膨大な軍勢となる。しかし纏め上げる人物が在ってこその軍勢だろう。逆を返せば単独では何の力も無い。現に伊達家のひよっこ一人にすら手も足も出ず佐竹に泣いて縋って来たのだ。今、義重は盟主として伊達を追い詰めていたが、むしろ気持ちは政宗に傾いていた。
 義重と政宗は叔父甥の間柄である。が、奥州の諸侯は皆何かしらの血縁があり、何も特別な事ではない。それ故に小競り合いをこそ繰り返しながらも、互いに滅ぼしあうことも無くそれぞれに命脈を保って来たのだ。しかしそれが如何に此の地を停滞させて来たか。それを考えれば下手な血縁など無いほうが良いとすら思える。それを政宗は総て斬って捨てて見せた。深慮の足らぬ若造である。その場の激情に流され、先を見据えられない若輩者である。が、その思い切りの良さ、すがすがしさにはある意味共感するものがあったのかもしれない。
 義重は杯を置いた。浮かれて酒を過ごす諸将を見ながら、指先に扇を開き、開いてはまた閉じた。戦が終われば伊達の領地は一部を残して分割される事となる。それに血道をあげる諸将の姿が脳裏に浮かんだ。常陸は伊達領に接していない。戦に勝利したところで領地は取れぬと同然。結局、この惰弱な奥州諸侯の欲望の草刈場になるだけだ。臆病な獣共も狼が居なくなれば詰らぬ慢心を深めるだろう。果してその時、佐竹の在る意味を顧みる者があるだろうか。つまらぬ事だ。この勝利は勝利であって勝利にはなりえない。勝って利の無い戦など何にもならぬばかりかむしろ害ですらある。
 義重は思った。此処で自分が居なくなれば、この諸侯はどんな顔をするだろう。軍勢の数で言えばそれでも尚優勢だ。しかしそれは紛う事なき烏合の衆である。束ねるものの無い軍勢は伊達軍に崩されるだろうか。いや、それすらも無かろう。誰も矢面に立とう筈は無い。我先にと軍を離脱し、朝には誰一人として残っては居ないかも知れぬ。死を覚悟した政宗が、相手の誰も居なくなった戦場でぽかんと朝日を浴びている姿は何ともおかしな光景だろう。
 無論、単なる好事でするものではない。佐竹の力は既に示した。その上でそれが居なくなり、自らが伊達と対峙する身となれば、諸侯は己の立場を改めて知る事となるだろう。その時、伊達と言う狼を前に草食みの獣共はどうするだろうか。滅ぼされるを恐れるならば、伊達に降るか佐竹を頼る以外には無い。しかし彼らは伊達に降ることができなかったが故に此の戦がある。つまり、政宗が政宗であればある程に南奥州は佐竹に縋るしかないのだ。勝利より利の大きい敗北。なれば此の答えは簡単ではないか。
 何時しか諸将はそれぞれ己の陣屋に帰っていく。義重は最後の一人が出て行ったのを見届け、立ち上がった。
「陣払いだ。」
 理由などいかようにでもなる。南で北条が不穏な動きをしているとでもすれば良いのだ。


  あとがき
 佐竹義重を知っていますか?
 関東の大大名北条と真っ向勝負を繰り広げ、奥州の伊達を窮地に追い込み、関東に引越しして来た徳川からは目の上のたんこぶとして目の敵にされた佐竹の中興の祖『坂東太郎鬼義重』です。
 余り知られていないのは此の人を主題材にした小説が無い(ある事はあるが出来が悪い。エンターテインメント性が決定的に欠如している。)為でしょう。でも最近の美形武将似非戦国物は勘弁だぁ。虫が良い?あ、そう・・・。
 何時か書きたいと思ってはいるのですが、資料集めが大変そうだなぁ。でも此の人は本当は凄いんですよ。私の中では(笑い)伊達政宗なんかよりずっとずっと大物で、はるかに偉大な武将なのです。しかし悲しいかな、徳川に睨まれたばっかりに過小評価されてしまっとる。
 で、短くてもこの際一本書いておこうと思ったのが上記。ホントにみじかっ!!しかも主人公の台詞がたったの一言(笑い)。資料による補完不足の事象を削いでいったらこれしか残らなんだ(酷いもんだ)訳だが、まあこれはこれでよかろ。書きたい事の大筋は詰まっている。何時かこれを元に長いの書いてみたいなぁ。
 最後に南奥州ですが、物語などでは伊達に蹂躙されまくったイメージが強いのですが、実は意外にも殆どが生き永らえているのです。ただし実質佐竹の配下として。伊達と並ぶ名門の蘆名も伊達派との跡目争いの結果佐竹から頭首を迎えています。つまり、伊達と言うヤクザな大名がいるばっかりに南奥州の諸大名は佐竹を頼るしかなかったのでしょうなぁ。そこに人取り橋の合戦における佐竹の謎の撤退の理由がある訳です。あとは物語参照。最後は会津も伊達に奪われてしまうのですが、その時は秀吉の惣無事令の後ですから、政宗のした行為は自殺行為です。実際、政宗はホントに秀吉に殺されはぐったし、無論会津も没収されました。ですから佐竹も直接おおっぴらに関わる訳にはいかなかった事情があります。わたしは会津失陥を伊達に対する佐竹の敗北とは見ていません。むしろ秀吉が強大過ぎる佐竹の力を削ぐのに伊達を利用したのだと考える訳です。

政宗「え?俺、結局利用されっ放し?」
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~ Comment ~

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ゲームでは強いんですけどね、佐竹義重。

ある意味、戦国武将の中でもかなりドラマチックな人生を送った人だから、NHKの大河ドラマかなんかで取り上げてくれないかなあ、と夢想しております。

茨城県で時代劇を撮る場所にも恵まれてるし。

あとは茨城県出身の作家がベストセラー原作小説を書けばいいのです。だからさあ、おねがい(^^)

ポール・ブリッツ様へ

 毎度コメントありがとうございます。
 かく言う私も佐竹義重を知ったのはゲームでした(笑い。信長の野望覇王伝・・・・ぎぁぁぁぁぁ、歳がバレバレ。
 当時歴史なんて知らない若造が、ただ地元と言うだけで選んだ弱小佐竹。とにかく弱くて弱くて、浪人してたのを拾った太田資正のみを頼りにをひたすら蘆名の猛攻を耐える日々。と、そこに突然現れたハイスペック(関東では突出してたんですよ)な武将。何だこいつはゃぁぁぁぁぁ。義重との衝撃の出会いであった(笑い。以来、大ファンです。
 話は変わるが、その頃のグラフィックときたらもうむさくておやぢで、そりゃぁもう・・・。でもそれだけに味が有ったなぁ。今のはみんなチャラくて、上っ面だけで、もう嫌><

歴史もの

伊達正宗は知ってますけど、佐竹義重は知らないですね。
伊達正宗は小学生の頃に、NHKで「独眼竜正宗」と言うドラマで知りました。正宗は渡辺謙が演じてましたね。

後、「花の慶次」と言う漫画にも正宗が出てましたけど、佐竹義重は出てなかったですね。この記事で初めて知りました。

miss.keyさんはゲームで知ったんですね。

ゲームで思い出しましたが、サッカーで「ウイニングイレブン」シリーズを知ってますか?miss.keyさんならやってそうな感じですね。自分はPS2であったシリーズをプレイしてました。本体は持ってなくて、ソフトだけ買って、近くの漫画喫茶にあるPS2でプレイしてました。
「2013」からPS2で発売されなくなったので、それ以降はやってないですね。PS3が置いてる漫画喫茶ないですかね。

最新のFIFAランクの発表です。日本は4つ落として48位に後退。イランが45位となり、アジア2位となりました。
これを観て「え、何で下がるの?オランダにもベルギーにも負けなかったやん」って思いました。イランはアジアカップ予選だけど、公式戦だからかなって思いました。

日本に敗れたベルギーはホームでコロンビア、日本と連敗したため、6つ落として11位です。

最新のトップ10です。※()は前回順位 
1.(1)スペイン。2.(2)ドイツ 。3.(3)アルゼンチン。4.(4)コロンビア
5.(14)ポルトガル。 6.(6)ウルグアイ。7.(8)イタリア。8.(7)スイス
9.(8)オランダ。10.(11)ブラジル。

この順位での国がシードだったら納得いくんですけどね。7位までですけど。コロンビアはうーんですけど(笑)。

次回のサッカー記事は12/6の抽選会の時と、12月中旬に行われるクラブワールドカップくらいですね。私はトヨタカップと言ってますけどね。

楓良新様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 そうなのです。伊達政宗は有名でも佐竹義重は殆ど知られていない。悲しいかな。
 江戸時代、徳川の世にあって歴史と言えば徳川に都合の良いものとなるのは必然。そこで持ち上げられたのが、徳川にとって長らく大敵でありながら後に家臣を大量に取り込んだ武田や同盟相手であった伊達です。一方、君主筋の羽柴(豊臣)は貶められ、監視役だった佐竹は排除されてしまいました。残念無念。

 サッカーですが、FIFAランクって実力とは関係ないですからね。日本が嘗て9位だったって知ってましたか?1998年の事ですが、直後のフランスワールドカップで思いっきりボロを出し、翌1999年に計算方法を改定させたと言う、史上初の日本発FIFAルール変更の偉業を達成しました(笑い。まあ、現行方式でも2011年に日本が13位にランクされ、信憑性の改善には繋がっていませんね。日本は実際はおまけしても20位以下、妥当なところで30~40位って所じゃないでしょうかね。

こんにちは♪

私は、伊達政宗ですらゲームでしか知りません…。学校の授業もあまり聞いてませんでしたし、大河も見ないので…(^_^;)
佐竹義重は持っているゲームに、超脇役でいたかな?くらいの認識です。でも、このストーリーは楽しく読ませていただきました。(^^)

misako様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 大学の国史専攻でもあればいざ知らず、学校の授業では佐竹義重どころか伊達政宗すら触れないのではないでしょうか。興味の無い人が知らないのも無理は無いと思います。
 また大河ドラマは主人公を美化しすぎますし、歴史と言う観点から見ると間違いだらけです。あれは飽くまでも歴史小説のドラマ化ですから、その積りで見てないと間違ってしまうのですわ。まあ、私もかなり偏ってるんですがね。

萌えました♪

miss.keiさん、こんばんは♪

こちらの歴史物、骨太の文体がたまらなく素敵ですね。こういう突き放した目線で描かれる文章に、私、萌えます!!(笑)
いつかmiss.keiさんが書かれる佐竹義重の物語を読んでみたいと本気で思いましたね。

佐竹義重って、名前くらいしか知らなかったのですが、こういった歴史の動きを陰で支えた武将は実に魅力的です。それをmiss.keiさんがどのように動かしていかれるのか、考えるだけでも実に楽しい。

楽しいといえば、こちらの作品、実は病院の待合室で読んでいたんですよね。で、「死を覚悟した政宗が、相手の誰も居なくなった戦場でぽかんと朝日を浴びている姿は何ともおかしな光景だろう。」の行を読んでぶっと吹き出してしまって、みんなの視線を集める楽しくも(笑)変な人になってしまいました(^_^;)
この箇所は午後からもずっと思い出され、そのたびごとにニヤついてしまいます。朝日を浴びてポカンとする伊達政宗。佐竹さん、考えることが面白すぎます。

ではでは、またほかの作品も読みにこさせていただきますね。
いつも素敵な小説を読ませて下さり本当にありがとうございます(*^_^*)

三宅千鶴様へ

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 戦国時代、関東の武将と言うと、歴史の中心にいなかったばかりにどうしても知名度が無いのですよ。でもけっこう凄い武将もいたのです。ここにあげた佐竹義重や、主家結城を押し退けて一時は三十万石の大身(諸説あり)にのし上った多賀谷重経、関東ではないけど南部から津軽を分捕ってそ知らぬ顔で秀吉に本領安堵させた津軽信為とか、伊達に逆らって逆らって逆らいまくって結局最後まで逆らった相馬義胤とか、けっこう面白いのが揃っているんです。残念ながらドラマなどでは採り上げてもらえません。勿論、彼らが伊達政宗に劣っていた訳では無く、たまたま豊臣政権に近かったがばっかりに徳川の世で冷や飯を食わされてしまい、世間の評価が不当に低くされてしまったからなのです。ですから、そういう武将達に光を当ててみたいと思うわけです。思うだけですが(笑い
>>「死を覚悟した政宗が、相手の誰も居なくなった戦場でぽかんと朝日を浴びている姿は何ともおかしな光景だろう。」の行を読んでぶっと吹き出してしまって
いあ、そういう部分に目を向けてもらえて嬉しいです。時々、自分で書いてて思わず悦に浸ってしまう部分があったりするのですが、人にそういうところを見つけてもらえると何かとても嬉しい気持ちになります。見つけてくれてありがとう。感謝感謝。
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