リクエストにお応えいたしまして

 とあるショッカーの日記
 第一夜たぶん

「総統、銀行どうでしたか?」
「また断られたよ。計画がずさんすぎて融資は出来ないって。」
「税務署から滞納している税金、今月中に払わないと差し抑えますって言ってきてますけど。」
「なんとか世界征服するまで待ってもらえないかな。」
「何時になるか判らない様な話は駄目だって此の前言われたばかりですよ。」
 茨城県は西部の某T市。駅前にある四階建のカステラビルには「秘密結社ショッカー」の看板ばかりが堂々と掲げられてある。とは言っても事務所は四階のみで、一、二、三階にはテナント募集の張り紙が張られていた。が、築四十五年のぼろビルは此処十年来借り手が居ない。幾ら古いとは言え駅前にあってそれは無いだろうと言うなかれ。都会ならいざ知らず、田舎の田園都市のローカル線など利用する人の方が珍しい位で、駅前と言っても賑わうのはヒヨドリがねぐらにしている立ち木ばかりだ。だから、全身タイツの骸骨模様や、蜘蛛だの蛸だのと言った変な格好の連中が出入りしても目立たない。秘密結社にとってはとても都合の良い物件だった。
 ところが税務署の眼ばかりは逃れられなかった。お役所仕事と言う言葉が何を表すか今更知らぬ者が無い中にあって、事税務署に限ってはその例に当たらない稀有な存在である。その取立てときたら、全く何処をどうして調べてくるのやら、世界征服を企む秘密結社の帳簿にまで容赦無しだ。
 鳩時計が鳴いた。
「定時ですので上がりまーす。」
「おつかれさん。」
 パートの経理が席を立つ。とほぼ同時にドアが開いた。怪人蜘蛛男が帰って来た。
「どうだった?」
 総統は身を乗り出して尋ねるが、蜘蛛男は大きく頭を振った。
「どうもこうも。何処も不景気で出資は断られました。」
 蜘蛛男は足をさすりながら腰掛けると安物の椅子はキィキィと音を発てた。
「肉屋は?」
「駄目です。」
「酒屋は?」
「その前につけ払えって。」
「むむむむ、流通の独占権でも揺るがないとは、欲張りな奴等だ。」
「そういう問題じゃ無いような気がします。」
「そんな気構えだから駄目なんだろうが」
蜘蛛男の弱音に怒った総統は塗りの禿げ掛けたステッキを突き出して気色ばむ。そして振り返った。
「えりちゃん、お茶。」
 無論既に居ない。総統は仕方なく台所に向かった。
「あ、総統、ガス台壊れてるんで缶のお茶飲んでください。」
「えー、〇~いお茶美味しくないんだよねぇ。」
「贅沢は敵です。」
 蜘蛛男に逆に諭されて総統は頭を搔いた。
「敵と言えば、仮面ライダーの奴はどうなった?」
「ああ、怪人ホタテ男から電話ありました。今病院なんで労災お願いしますって。」
「馬鹿いうんじゃないよ、労災なんて言われても金庫空だよ。」
「困りましたねぇ。戦闘員達も給料払ってくれないならこれ以上出社しないとか言ってるし、正直、自分もそろそろ身の振り方考えないと・・・なんて。」
「おい、蜘蛛男、お前に見捨てられたら、俺の面倒は誰が見るんだよ。」
総統は蜘蛛男の足に縋りついた。
「一緒に世界を征服しようって誓っただろー。」
涙をぼろぼろ零す総統の姿を見て、蜘蛛男もつい涙ぐむ。
「すみません、総統。つい心にも無い事を。」
 つくづくお人好しである。
 電話が鳴った。総統はおもむろに立ち上がると、受話器を上げた。
「はい、秘密結社ショッカー総合案内でございます。」
 受話器の向こうから中年男の野太い声が聞こえてきた。
「あ、総統?ちょっとさー、ビルの解体の仕事大急ぎで頼むわ。明日中にいいかなぁ。」
「あ、喜んで。代金は現金でお願いしますね。出来れば領収書無しで。」
「しょーがねーなあー。その代わり三割引でいいよね。」
「りょーかいです。」
 総統は受話器を置いた。今鳴いたカラスがちょいと笑う。
「仕事だ仕事。そういう訳で仮面ライダーに決闘申し込んで来て。」
「またライダーキックで壊させるんですかぁ?」
「つるはし振るうより楽だろう?」
「へいへい。」
 蜘蛛男はデスクに向かうと便箋にすらすらと筆を滑らせる。
「あんまり達筆は駄目だぞ。仮面ライダーの体力馬鹿には読めないからな。」
 総統は窓の外を見た。パチンコ屋のアドバルーンが風に揺れていた。本日出血大サービスとかなんとか。
「よーし、やるぞー。」
 総統は大きく頷いた。希望はある。世界征服はまだ道半ばなのだ。
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