藤花幻:3 求む ! 証拠

「短編」
迷奉行大歩危豊前守鎮黙

3 求む ! 証拠

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   迷奉行大歩危豊前守鎮黙

 3 求む ! 証拠

 豪商で知られた大黒屋豊左衛門が殺された。近年稀に見る大事件である。奉行所はてんてこ舞い。筆頭与力の井伊加元助(いいか もとのすけ)もてんてこ舞い。それでも執務室に缶詰になっている町奉行大歩危豊前守鎮黙(おおぼけ ぶぜんのかみ しげもり)に比べれば、何の不平を言えようか。元助、奉行の体が心配になって部屋を覗いてみたら、
「まったく世間はせわしなくていかんのぅ。」
 などと言いつつ豊前守、寝そべって絵草子など捲っていた。
「御奉行~~。」
 がっくりと肩を落とす元助に、豊前守は自分が原因である事など毛ほども疑わず
「元助、筆頭与力が情けない声を出すでないわ。皆に示しがつかんだろう。」
 と扇子をぽい。
「で、下手人の目星は付いたのか?」
「白洲に引き立てましたので、お裁きを願います。」
「そちに任せる。」
 あきれ返った元助だが、扇子を拾って差し出しながら
「何でも、大黒屋の先代は御老中水野安房守様の懇意だったとか。」
 耳打ちしたので、豊前守の顔色も自ずと変わる。
「ここはしっかり処理しておきませぬと、後々何かと面倒かと。」
「そ、それはいかんのぅ。」
 慌てて身支度する豊前守に元助、してやったりと鼻を鳴らした。
 と、言うわけで御白洲。

 豊前守が慌てて白洲に出てみれば、えらい人相の悪い男共がごんろごんろと山の様。どうやら怪しいと見るなり片っ端から連れて来た様子。
「これ、元助、ちとやり過ぎじゃ。」
 豊前守、扇子で口元を隠して隣の筆頭与力に言うと、
「ですが、これら皆ごろつき。いずれ何かしら脛に傷持つ輩なれば、間違いであっても訴えられる事もありますまい。」
 元助の確信犯っぷりに、豊前守も流石に唸って座布団に座った。
 さて、肝心要の事件はと言えば、あらましはこんなものである。
 株仲間の寄合に大黒豊左衛門が意気揚々と出掛けたのは、数日前の夜、夜中。仕事の上での打ち合わせと言えば聞こえは良いが、実のところは芸者遊びの午前様である。だが此の豊左衛門、かなりの男前ではあったが入り婿のかかあ天下となれば女遊びなぞ終ぞした事が無く、因って、妻が物見遊山に出掛けた此の夜はまさに一大イベントの大スペクタクル。大金を懐に鼻の下伸ばしていそいそと月夜の下を一人で歩いて行ったのだが、朝になってみれば水も滴る土左衛門。懐の財布は当然無くなっていたそうな。そこで奉行所の役人が押っ取り刀で駆けつけ調べてみるや、疑わしい者が次から次へと出るわ出る。
 その壱、以前、御店の普請で大揉めに揉めた口入屋の市蔵親分。
 その弐、その手下で一の子分の仁平。血の気が多く普段から過激な言動をしていたそうな。
 その参、旦那の芸者遊びの現場に、そのお内儀と『仲良く』していた処をぶつかってしまった役者の三次。
 その四、使い込みを隠していた番頭の与吉。実は市蔵親分の弟だとか。
 その伍、大黒屋からの借金が嵩んでいた貧乏御家人の雷神五郎兵衛。金も無い筈なのに昼間から大酒飲んでゴロゴロしていたらしい。
 挙句の果てには、遊び金欲しさに豊左衛門に付き纏っていた金さんなどという遊び人まで出てきて、てんやわんやの大騒ぎ。だがしかし、これらがどうやら皆グルだと言う所までは突き止めたのだが、
「で、結局手を下したのは誰なんじゃ?」
 帳面から顔を上げて豊前守が白洲を一瞥すると、皆フンとそっぽを向いた。
「これ、市蔵、そちはどうなんじゃ?」
「冗談じゃねえや。何で俺が殺るもんけい、馬鹿馬鹿しい。ケッ!」
「お前はどうじゃ?」
 豊前守、めげずに今度は仁平を指した。
「さあね。」
「お前は?」
「あっしじゃござんせん。」
「お前・・・」
「知りません。」
「おま・・・」
「どうしてわしなのだ!」
「お・・・」
「あっしは唯の遊び人でさぁ。」
 一通り聞いては見たが、皆一癖二癖どころか、三癖も四癖もある輩ばかり。素直に認める筈も無し。豊前守も手を拱いてしまった。すると
「証拠も無えのに、俺達をしょっ引くたぁ、どういう了見なんでい。」
 仁平が啖呵を切った。
「天下の名奉行大歩危豊前守様ともあろうお方が、こんな茶番をするとは笑止千万。」
 貧乏御家人雷神五郎兵衛にも追い討ちを掛けられ、豊前守もむっとする。更に
「私達が殺ったって言うなら証拠を見せて欲しいですな。」
 と、番頭の与吉が続いたものだから、皆調子に乗って
「そうだ、証拠だ、証拠!」
「証拠を見せてみろ!」
 と大合唱を始めるに至っては、豊前守のこめかみの血管はもうもはち切れんばかりである。そこに、
「どうせ証拠なんて何処にも無えんだろう、このヘボ奉行!」
 勝ち誇った顔で市蔵が叫んだから堪らない。豊前守はすっくと立ち上がると、諸肌を脱いで段の所まで乗り出した。 
「証拠、証拠と、黙って聞いてりゃ付け上がりやがって!証拠なんざぁなぁ、造る気になれば幾らだってでっち上げられるんでぃ!誰が下手人かさっさと言わねぇと、てめえ等まとめて獄門首にしてやるからそう思いやがれ!!」
 豊前守の形相は凄まじく、地獄の閻魔も逃げ出さんが勢い。次の瞬間、白洲の一同皆青ざめて市蔵親分を指差しましたとさ。


 注:此の物語は南蛮で言うところの「ふいくしよん」である。真に受けぬよう、しかと申し渡す。
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NoTitle

そういやあ昔、

「やかましい! 闇奉行のおれには証拠なんざいらねえんだ! たたっ斬る!」

というのが決め台詞だった時代劇ヒーローがいましたなあ。

すごい時代でしたなあ(笑)

ポール・ブリッツ様へ

 毎度ご来訪いただきありがとうございます。
 里見浩太郎さん主演の時代劇らしいですね。
 今の時代劇(と言っても余り見かけないけど)は画面は良くなったのですが、色々な意味で表現に制約が多くて少し残念です。時にはそんな制約を課さない作品があっても良いんじゃないかと思う次第。
 でも、ありもしない歴史を事実のように語ったり、出て来る武将が全員イケメンだったりは勘弁ですなぁ。
自戒も込めまして。
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