藤花幻:10月の夕闇

好きな歌をば

10月の夕闇

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 心の奥にまで響く歌詞がある。にもかかわらず、その歌詞から受け取ったものをうまく言葉に置き換えられないのは何故だろう。心の中には幾人もの自分がいる。素直に感動する自分。認めながらも茶化さずにはいられない自分。浮気性で他と比べては行ったり来たりする自分がいると思えば、頑固一鉄に他を認めない自分もいる。まあ、自分の中の事ですら持て余しているのだから、他人の歌を言葉にしにくいのは当然といえば当然。


 -10月の夕闇-   吉田美奈子

削除(笑

 洒落た店が並ぶ通り。街燈が照らす並木は夕べの風に色づいた葉を散らしている。
 路側に車を止めて置ける程には道幅に余裕があり、通る人は少なくはないが、肩をぶつけ合う程に混雑もしていない。
 女は赤いスポーツカーの運転席で何をするでもなく、さり気なく人波を眺めている。時折、ふとコートの男性に目を止めるが、人違いだ。
 互いに相手を思い、労わりあった仲でありながら、しかしその思いを言葉には出来なかった二人。気持ちを言葉にしてはならない事情があったのだろう。そこまで詮索するのは野暮というものだ。
 二人は一つだけ約束を交わした。それが男と女を繋いでいる唯一の糸であり、女の心の支えなのだろう。しかし会う事すら出来ない相手の心を確かめる術は無い。ただ想いを持て余して街に出る。街に男が居る筈はない。いくら捜してみたところで居る筈がないのは自分が一番よく知っている。しかし居る筈もない人を探してしまう。
 横断歩道の信号が変わる。赤になり、青になり、点滅してまた赤に変わる。延々と繰り返すそれを見ながら、あと幾度と数えてしまう。次に信号が変わったら立ち去ろう。次の信号で立ち去ろう。取り留めもなく延べていく。
「もしかしたら。」
 そんな思いも所詮は悲しい事。信号が点滅する。次に赤になればもう青になることは無いだろう。心の中で冷徹な自分がささやく。
 あの日の思い出が蘇る。ささやかな、しかし幸せだった記憶。今はその思い出に浸るだけ。
 女は吐息を一つ、前髪を寄せて車の鍵に手を掛けた。
 奇跡が起こる。
 彼女の白い指先に男の手が触れる。女は驚いて顔を上げる。幻なのかもしれない。そこには優しい男の微笑みがある。



















「きみ、此処は駐車禁止だよ、はやく車を移動させなさい。」
 ああ、ぶち壊し・・・。
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